代表取締役 専務執行役員インタビュー(2025)



「コア技術の進化」と
「M&A、CVCの活用」の両面から新事業を創出し、
事業化、収益化をコミットすることで、
地球規模の社会課題解決と業績に貢献する

当社は「イノベーション」をマテリアリティと位置付けていますが、
今後どのような領域でイノベーションの拡大を目指していくのでしょうか。
当社グループでは、気候変動や高齢化の進行、次世代通信の普及など将来予想されるメガトレンドに対して、当社のもつ現有の事業領域と強み(先取り・加工・変革)を活かすことでその解決に貢献できるという観点から、「脱炭素および、循環型社会の実現」「ひとびとの健康な生活の確保と福祉の充実」「持続可能なインフラ、まちづくり、居住環境および通信環境の提供」などを重要課題として特定しています。
これらの社会課題に対してどの領域で事業を展開していくのか、いわゆる事業戦略の羅針盤として作成したのが戦略領域マップです。マップの中で現有事業からの延長で拡大する領域を「強化領域」、将来トレンドを踏まえ新たなイノベーションを創出する領域を「革新領域」と定め、政策会議や取締役会で議論したうえで、この2つの領域のどこに集中的に資本を投下するかを毎年決定しています。
イノベーションを起こすため、自社での開発とM&AやCVCを
どのように使い分けていきますか。
当社グループの価値創造の源泉にあるのが技術プラットフォーム(TPF)です。これは特に競争力がある、あるいは今後さらに強化していくべきと考えているコア技術を定義したものです。自社開発ではこのコア技術を磨き上げていくことに注力していますが、その際重視しているのが、技術集中・市場分散の考え方です。
たとえば創業時から製造しているポリビニルアルコール(PVA)は78年間磨き上げてきた技術ですが、PVAをベースにポリビニルブチラール(PVB)が開発され、それがエレクトロニクス分野で使われるMLCC用のバインダー樹脂となり、あるいはフィルムにするとモビリティ分野で使われる中間膜になります。そして次なる新製品として、ライフサイエンス分野の再生医療の領域で新たな可能性を切り開く製品として、iPS細胞の培養プレートを上市しました。技術集中・市場分散によって開発の経営効率を上げると共に、収益源の多角化をはかっている好事例のひとつです。
その際重要な役割を担うのがコーポレートのR&Dセンターで、「次世代事業となる開発テーマ創出」「技術融合、技術サポート」「全社の開発のマネジメント」の3つの役割を果たしながら、カンパニー横断の開発テーマの進捗管理や支援を行っています。
一方、自社のコア技術で対応しきれない課題に対しては、M&AやCVCを通じて外部技術を取り入れることも有効だと考えています。具体的には、次世代事業の創出に貢献するもの、またはカンパニーの革新領域に近いものを想定しており、当社グループの事業や技術を強化できるシナジーが期待できるかどうかという点を重視しています。
新事業開発部の役割とR&Dセンターとの違いを教えてください。
R&Dセンターは「0から1」をつくる、つまり新たなテーマの初期探索・企画と基礎技術の確立が役割で、新事業開発部は「1から10」にしていく事業開発、つまり生まれた技術やアイデアを事業として形にしていくフェーズを担当しています。そして「10から100」、事業を拡大・成長させるのが各カンパニーです。
新製品や新技術をR&Dセンターから新事業開発部へ移管する基準は、「ゲートレビュー(GR)」という制度で決めています。GRには0、1、2-1、2-2、3と段階があり、各段階で事業性や技術面の進捗を検証します。
新事業開発部へ移管するのは、基本技術が完成し事業化の見通しが立ったGR2-1に合格した段階としています。
新事業を創出し事業化、収益化を果たすには、
どのような組織・体制が理想とお考えですか。
事業化、収益化の役割を果たすのが新事業開発部ですから、ここに関わる人材には一定の「事業感」をもっていることが求められます。また、新事業は「社会課題の解決に資するテーマ」であることが大前提ではありますが、私が重要だと思うのは「これは本当に自社でやるべき事業か」という視点で、そうした土地勘や肌感覚をもった組織であることも大切だと考えています。当然、「0から1」を担った人材も一定数必要です。
2023年度からスタートした社内起業制度「C.O.B.U.アクセラレーター」も3期目に入っています。2期連続で100件を超える新事業の応募が集まり、多くの社員が「チャレンジしたい」という想いを形にしてくれていることに手応えを感じていますし、挑戦人材の育成にもつながっていくと期待しています。一方で、私たち経営陣がすべきことは、こうした挑戦にしっかりと応えて本気で応援することです。事業化の過程で直面する泥臭い現実も共有しながら、社員が継続的に挑戦しようと思えるカルチャーを築いていくことが大切だと考えています。
注目が集まるペロブスカイト太陽電池事業の進捗状況を教えてください。
産学官の連携が進み、国の支援を受けながら現在100MW規模の製造ラインの新設を進めており、2030年には1GW級に拡大することを目指しています。フィルム型ペロブスカイト太陽電池は、高機能プラスチックスの封止・塗工技術を使って製造しているだけでなく、環境・ライフラインのもつ、省庁・自治体やゼネコンなどとのネットワークを使って実証やマーケット探索、および施工技術の活用による施工方法の確立を進め、将来的な戸建て住宅への導入検討を住宅カンパニーで進めるなど、3つのカンパニーのシナジーを結集し開発を進めている点が大きな特徴です。大阪・関西万博での設置、東京都、福島県、福岡県等での実証実験の推進により、量産化・実用化に向けた開発を加速しています。
投資の判断について取締役会ではどのような議論がなされていますか。
既存事業と新事業とで判断基準に違いはありますか。
既存事業と新事業とで、基本的な判断基準に大きな違いはありません。まず前提として、今後市場に導入する新製品はすべてサステナビリティ貢献製品となり、取締役会で議論されるような大きな案件は、プレミアム枠の製品に関連するもの以外はほぼありません。設備投資の基本的な考え方としては、ROIや回収期間などの指標をもって総合的に評価しています。今回の100MWのペロブスカイト関連の投資もこの基準をクリアし、決議に至ったものです。
既存事業では、33事業を4象限に分類したカテゴリーの内、成長牽引・成長期待事業へ6割以上の投資を集中させています。ROICがWACCを下回る場合はアラートを発しており、高機能プラスチックスや環境・ライフラインでは過去この方針に沿った構造改革や撤退も進めてきました。
事業化を目指す過程で、進捗管理のポイントや
撤退を含めた見極めの基準はありますか。
現場の技術者は「自分たちが育てた技術を最後までやり抜きたい」という強い意志をもっていますが、新事業開発は技術的ハードルが高く費用もかさむ上に、何年も成果が出ないことも少なくありません。大きなプレッシャーがかかる難しい仕事に挑戦しているのだということを念頭に置いて、経営側は万全なサポートをすると同時に、責任をもって継続・撤退の判断も含めた意思決定をしなくてはなりません。進捗の見極めには、「市場軸」「技術軸」からの定量評価を行う「K値」制度を活用しており、将来的な事業性・成長性を多角的に判断しています。市場が縮小していく中でこれ以上はシェアアップが見込めないものなのか、市場自体は成熟していても、まだ当社のシェアが少なく、拡大余地があるものなのか、しっかりと見極め、経営判断をしていかなければなりませんが、私自身が技術畑出身の人間ということもあり、個人的には「技術が難しいからあきらめる」という判断は、可能な限り避けたいと思っています。
1つ直近の事例を挙げますと、例えば、定置用蓄電池(Lib)事業では、近年まで数十億円規模の赤字が続きましたが、性能向上と徹底したコストダウンにより、まずは損益ゼロを目指しました。結果、24年4Qに黒字化を果たし、拡大フェーズに入ろうとしています。新事業であっても赤字のまま技術開発を続けるのは難しく、少なくとも採算面でなるべく早期にゼロにすることが事業継続の条件だと思っています。
M&AやCVCの対象領域と狙いを教えてください。
中期計画では、「Vision 2030」の実現に向けて3,000億円という投資枠を設定しています。M&A、CVCは戦略領域マップの「革新領域」を主な対象とし、これまで高機能プラスチックスとメディカルを中心に検討を進めてきました。医療CDMOについては、価格が高騰していることもあり多少慎重にならざるを得ない状況ではありますが、元来当社が強みをもつ領域については、継続して検討の余地があると考えています。
環境・ライフラインや住宅についても手応えを感じつつあります。たとえば住宅カンパニーでは、今後大工不足が深刻化していく環境下において、競合の約半分の工数で施工できるという当社グループのユニット住宅の優位性は相対的に高まっていくと考えており、施工能力の確保等、シェアアップに向けて必要なリソースは取り込んでいきたいと考えています。また環境・ライフラインは営業利益率も10%がみえてきて、次は量の拡大が必要なフェーズにきており、重点拡大製品を中心に海外にもチャレンジできるのではと考えています。環境・ライフラインと住宅では、引き続き投資額とリスク・リターンのバランスを見極めながら成長につながる投資を進めていきます。
M&Aの実行において意識されていること、
M&A後のマネジメント(PMI)のポイントについて教えてください。
高値掴みを避け、単なる規模やエリア拡大を目的とした投資は行わず、事業や技術のシナジーが期待できる案件に特化することを徹底しています。これまでで最大の案件は、2019年に買収したSEKISUI AEROSPACE社の約550億円ですが、本気で取り組むべき案件が出てくれば1,000億円を超える規模の投資であってもやりたいと考えています。ただ、基本的には身の丈に合ったM&Aを前提とし、小が大を飲むような買収は考えていません。
PMI(Post-Merger Integration)については、これまでのM&A経験を通じて確実にノウハウが蓄積されてきています。取締役会では買収の1年後・3年後評価を行い、M&Aによる成果やシナジーを議論し精度を高めています。さらに、減損リスクを抑え、仮に想定通りに進まなかった場合でも影響を最小限に抑えるための議論を重ね、慎重かつ戦略的に取り組む体制を整えています。
ご自身が特に注力されたイノベーションや成功体験はありますか。

高機能プラスチックスカンパニーで仕事をしていた中で最も印象的な成功体験は、有機溶剤を使っていた粘着テープの製造を完全無溶剤化に切り替えたことです。30年も前のことですが、テープの品質を向上させながら生産コストを大幅に削減するという生産プロセス革新でした。
成功までの道のりは困難続きでしたが、初期実験のために1,000万円もの当時としては高額な実験設備の購入を上司が認めてくれたことがすべてのはじまりでした。その後さらに20億円以上の設備投資が必要となったわけですが、背中を押してくれた上司の存在なしに成功はありませんでした。もうひとつの支えは仲間の存在で、途中「本当にできるのか」と不安になったとき、「絶対できる」「できるまでやるからできる」と何度も励ましてもらいました。この「できるまでやる」が、その後もずっと私の会社人生のモットーになっています。
新事業開発における担当役員としての役割やイノベーションにかける
清水専務の想いを聞かせてください。
「Vision 2030」で掲げる「Innovation for the Earth」に本気で取り組み、その姿勢を見せることが私の役割だと考えています。私たちの事業活動を通じて、より安全で、便利で、環境に優しい社会を実現すること、これこそが私たちが目指す「社会課題の解決」であり、そのためには地球規模でのイノベーションが求められています。ペロブスカイト太陽電池は現時点ではまだ日本中心の取り組みかもしれませんが、この先世界へと広がる可能性を秘めており、まさに地球規模でイノベーションを起こすツールのひとつです。
当社グループの仲間全員と一緒に「Innovation for the Earth」に挑戦し、「“未来につづく安心”を創造していく」というビジョンの実現に力を尽くしてまいります。