代表取締役 専務執行役員メッセージ(2026)



「攻めのESG経営」と
「規律あるリスクテイク」を実践し、
成長機会を逃さない経営で成長を加速する

2026年3月より経営戦略部長に就任されました。
これまでのキャリアを振り返りながら、西田専務が経営判断を行う際に大切にされている考え方や意識していることについてお聞かせください。
私はこれまで、税務、経営企画、財務・経理、経営戦略と主に「経営管理」分野を歩んできました。ビジネスマンとしての初期段階で経営を数字で捉える基礎ができたのは大きな財産になりました。
20代後半の時期に買収直後の米国企業へ出向しました。職場に日本人がほとんどいない中で、自分の考えをはっきり言葉にしなければ物事が進まないという経験は、その後の私の仕事に対するスタンスに影響していると思います。
最も長く携わったのが経営企画部門です。1998年から会社が4年連続赤字だった時期には、経営トップが厳しい意思決定を迫られる姿を間近で見てきました。赤字の最中の2000年にカンパニー制を導入しましたが、これが現在の積水化学の組織体制になっております。緊急経営施策を打ちながらも、同時に将来を見据えた改革を断行することの大切さ、難しさを肌で感じました。
その後2009年から環境・ライフラインカンパニーで経営管理を担当しましたが、当時はM&A後の事業整理が必要な時期でもありました。買収した事業の再編・譲渡・撤退という、ある意味では買収そのもの以上に難しい事を経験しましたが、実行済みの投資規模ではなく将来リターンに焦点をあてた意思決定を徹底することの訓練にもなりました。
この10年ほどはコーポレートで財務・経理を担当し、現在は経営戦略部長を務めています。清水社長とのコミュニケーションにあたっては、「どんな選択肢があるか」にとどまらず「第一案は何でそれは何故か」に重点をおいて、トップの決断をサポートできればと考えています。経営管理の仕事が長かった私にとって、リスクを指摘する、ブレーキを踏むことはある意味簡単です。しかし、今の当社に最も必要なのは、リスクを見極めたうえでリスクテイクし機会損失を防ぐことですので、社長とのコミュニケーションにあたってもこの点を心がけています。
前中期経営計画をどのように評価していますか。
成果と課題を教えてください。
前中期経営計画は、「戦略的創造」と「現有事業強化」の2本柱で推進してきました。「戦略的創造」では、何といってもフィルム型ペロブスカイト太陽電池です。これまでの当社にはない規模の投資、人材投入を決断し事業化につなげました。また、海外の航空機関連事業や新たなインフラ関連素材(FFU)の海外展開についても、打つべき手を確実に打ちました。現有事業強化においても、半導体材料などのエレクトロニクス分野への増産投資、住宅周辺事業のM&Aなど、将来を見据えた布石を打つことができました。一方で、バイオリファイナリー事業は実証実験を完了したうえで商用化を見送りましたが、実行済みの投資にとらわれず商用化見送りを決断したことは適切な経営判断だったと考えています。また、住宅事業やメディカル事業については中期計画に対し利益未達でしたが、例えば住宅事業内でリフォーム等の成長領域へ経営資源をシフトするなど、収益構造を見直す施策を前中計期間中に講じました。投資意思決定においては、増産投資の意思決定時期など、スピードという点で課題を残したと感じています。新中計では、投資の失敗による損失と機会損失は同じ重みを持つと肝に銘じ、今後の意思決定につなげていきたいと考えています。
新中期経営計画「Accelerate 2028」には、どのような思いを込めていますか。
新中計「Accelerate 2028」は、2030年度に業容倍増、売上高2兆円、営業利益率10%以上を目指す「Vision 2030」に向けてのフェーズ3に当たります。前中計で仕込んだテーマの成果を創出するとともに、さらに仕込みを継続していく期間であり、「事業戦略」と「基盤強化」の両輪で、攻めのESG経営を実践します。数値目標は、売上高1兆6,000億円、営業利益1,500億円(営業利益率9.4%)を掲げ、全セグメントでの増収増益を前提としています。市場の成長率を上回る成長を見込む事業については、成長の根拠を明確にしたうえで策定しており、計画には自信を持っています。一方、地政学リスクによる原材料の調達難や価格高騰などの懸念点もありますが、これらの業績への影響は限定的と見ています。当社では価格改定は想定通り実施できており、それは価格転嫁を受け入れていただけるだけの製品価値を提供できている証しだと捉えています。
新中期経営計画「Accelerate 2028」では、どのような事業戦略を描いていますか。
「Accelerate 2028」の事業戦略では、「成長牽引」と「成長期待」にカテゴライズした事業を成長ドライバーと位置づけ、経営資源を重点配分していきます。「成長牽引」は、既存事業の中でも市場の成長率を上回る成長が期待できる事業です。その代表格の高機能プラスチックスカンパニーのモビリティ分野では、自動車市場全体の成長を上回る伸びを見込みますが、これは、主力製品である自動車向け合わせガラス用の高機能中間膜を採用する車種の拡大が見込めるためです。また、環境・ライフラインカンパニーでは、下水道更新需要の拡大が見込まれ、省人化工法やライセンス展開といった強みを生かし、市場動向を上回る成長を実現できると考えています。重要なのは適切なタイミングで資源投入を行うことであり、需要があるのに供給体制が整わず販売機会を逃すことがあってはならないと考えています。一方、「成長期待」の中心となるのがフィルム型ペロブスカイト太陽電池です。この事業は、高機能プラスチックスカンパニーの生産技術、環境・ライフラインカンパニーのエンジニアリング力、さらには将来における住宅・まちづくり領域での展開など、グループの強みを結集した共創事業です。新規事業であると同時に、全社シナジーを象徴する大型事業と位置づけています。2027年度に堺の新工場を稼働させ、2028年度の黒字化を見込んでいますが、製品性能や生産効率の向上など取り組むべき課題は残っています。当社グループが競争優位を確立するには、生産だけでなく、設計、施工、さらには発電後の運用まで含めたバリューチェーン全体を構築する必要があります。特に施工、運用など川下領域では外部パートナーとの連携が不可欠であり、自社の技術力を生かしながら協業を進めることが事業成功の鍵になります。こうした取り組みを通じて、グループ内の人材交流や技術連携も進んでいます。住宅事業についても、新築事業では、従来製品と競合しない新たな商品領域への展開によって成長を目指します。また、住宅事業はグループ全体の成長投資を支える重要な役割も担っています。安定したキャッシュを生み出しているからこそ、「Accelerate 2028」における投資枠7,000億円規模の投資を行っても健全な財務体質を維持できます。
環境価値をどのように事業成長へ結び付けていこうと考えていますか。
当社の全ての事業に共通しているのが、環境価値を成長につなげるという考え方です。当社グループがカーボンニュートラルやサーキュラーエコノミーへ取り組むのは、社会的責務を果たすためだけではなく、製品価値を高め、新たなビジネスチャンスを生み出す成長戦略そのものだと考えているからです。そして、その考えを具現化したのが「サステナビリティ貢献製品」です。新製品の開発段階から環境・社会への貢献を前提とした設計を進めていますので、今後、サステナビリティに貢献しない新製品を投入することは考えにくいと思っています。
ただし、サステナビリティ貢献製品であることが最終ゴールではありません。環境・社会課題への貢献は一定の客観的な基準で評価していますが、本当に価値が認められているかどうかは、お客様から評価され、高い収益を生み出しているかで判断されるべきです。だからこそ、中期経営計画では、高収益なサステナビリティ貢献製品の売上高を重要なKPIに位置づけています。環境価値を含むサステナビリティ貢献においてお客様から評価される製品を増やしていく。これが、当社グループの環境戦略の根幹です。
ポートフォリオマネジメントと成長投資についての考えと取り組みについて教えてください。
業績のボラティリティを抑えるという意味で、多様な事業を持っていることは当社グループの強みだと考えています。ただし、事業を漫然と抱えていてよいということではありません。ポートフォリオ経営のKPIはROICです。投下資本利益率(ROIC)がWACCを上回っているかだけでなく、それを将来にわたって持続できるかを重視しています。加えて、当社がベストオーナーであるかも重要な判断基準です。現在、事業単位で見れば、ROICがWACCを恒常的に下回るような、いわゆる問題事業は基本的にありません。ポートフォリオ見直しに際し重視すべきは、過去に稼いだ利益、過去の投資額、あるいは撤退時の減損損失等ではなく、事業の将来性評価です。資本効率の向上と健全な財務基盤の維持は、将来の成長投資を支える土台です。当社の現状、立ち位置を継続的に評価するとともに、これまで以上に負債も活用し投資を行っていきます。中期経営計画で予定する投資を実行した後も十分な財務余力を確保し、今後の成長機会に対しても機動的に投資を実行できる財務基盤を維持していきます。
人材や研究開発など、持続的な成長を支える経営基盤の強化について教えてください。
ESG経営基盤の中核をなすのが人材戦略です。これまで時間をかけて社員の挑戦行動を促してきましたが、その背景には、挑戦した結果の失敗よりも、挑戦しなかったことによる機会損失の方が大きい、という考えがあります。挑戦の失敗は目に見えやすい一方で、挑戦しなかったことによる損失は見えにくいだけに、いろいろな形で挑戦行動を促していくことは重要であり、トップ自らが本気で繰り返し伝えています。当初は、「自分の仕事で挑戦と言われても」と戸惑う社員も少なくありませんでした。しかし、「清水(きよみず)の舞台から飛び降りるような事ばかりが挑戦ではなく、現状を変える、打破するのが挑戦」ということも伝えてきたことで、挑戦行動の意識はかなり浸透してきたと感じています。新中計では、挑戦行動発現度を62%から72%へ高める目標を置いています。そのための取り組みとして、従業員調査を行い、組織ごとの調査結果を活用し、数値を見るだけでなくその背景までを掘り下げて議論しています。挑戦の形を一律に定義するのではなく、一人ひとりが自分にとっての挑戦行動を考えられるよう促し、成長を後押ししていきます。また、蓄積されたデータから課題を読み解き、人材育成施策をより効果的なものへと進化させていきます。こうした挑戦する人材こそが、新たな技術や事業を生み出す原動力になります。R&Dの強化に向けては、「際立つ技術の創出」を掲げています。競争優位の源泉となるコア技術群を『テクノロジープラットフォーム(TPF)』として定義し、個々の技術を磨くだけでなく、複数の技術を組み合わせて新たな事業や製品を創出していきます。研究開発のスピードを速めるために、マテリアルズ・インフォマティクス(MI)なども積極的に活用しています。
内部統制やDXなど、企業価値を支える経営基盤をどのように強化していきますか。
内部統制では、5領域の重大インシデントすべてについて、事後対応型から未然防止型への転換を進めています。情報漏えいや会計不正を事後的に発見するだけでなく、システムや業務プロセスを整備し、インシデントそのものを発生させない仕組みづくりに重点を置いています。また、新規事業や市場環境の変化に伴ってリスクも変化することを前提に、「今、何がリスクなのか」を継続的に見直し、対策を打つ機会を各カンパニー・事業部門で定期的に設けています。
DXではこれまで、統合ERP(SAP)システムの導入を進めるなどし、全社で粒度のそろったデータを活用できる基盤づくりに取り組んできました。そのデータの内部統制・競争力強化への活用が、これに続くステップです。AIによる業務効率化も図っていますが、今後は営業や設計など、事業の拡大に直結する領域での活用を進めていきます。例えば、住宅カンパニーにおいて、優れた営業や設計のベストプラクティスを全社展開するなど、生産性向上にとどまらず、AIを事業成長につなげていくことを目指します。
マテリアリティを刷新された背景について、聞かせてください。
マテリアリティは会社として「絶対に外さない」ことを示す意思表明であり、事業戦略や新製品開発の拠り所となる上位概念です。より正しく認識し理解するために今回見直しました。重要課題そのものを大きく変更したわけではありませんが、今回の中計ではより具体的に示すため、「価値創造フィールド」と「価値創造ドライバー」というカテゴリーに整理し直しました。社外にはよりわかりやすく価値創造の考え方をお示しし、社内では事業戦略や施策へ落とし込みやすい形になったと考えています。
中計達成に向けた、西田専務の意気込みを聞かせてください。

新中計「Accelerate 2028」の実現に向けて、正しく認識したうえで取るべきリスクを取り、成長機会を逃さない経営を、ファイナンス面のポイントも押さえながら支えていきます。また、社外取締役を含め、現在の取締役会は、成長に向けた適正なリスクテイクを後押しするスタンスをとっています。リスクを十分に理解・共有しながら、迅速な意思決定を支え、企業価値の向上に貢献していきたいと考えています。