EV用高容量LiBセルの発火に対応した「樹脂繊維複合材料」の開発について

激炎とセル内容物の噴出に対応した高難燃電池パックカバー材料

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2022年3月31日
積水化学工業株式会社

  積水化学工業株式会社(代表取締役社長:加藤敬太、以下「当社」)の高機能プラスチックスカンパニー(プレジデント:清水郁輔)は、独自の高難燃樹脂(塩素化塩ビ)と繊維強化複合技術の活用により、高容量リチウムイオン電池の激烈な発火に耐える「難燃軽量シート」を開発しました。今後は、パートナーと共に試験販売に向けて開発を加速していきます。


1.開発の背景

  近年、環境対策として電気自動車の導入が進んでいますが、更にその普及を加速するには航続距離の延長が課題の一つと言われています。この課題を解消するため、部品の樹脂化による車両重量軽減や、リチウムイオン電池の高容量化が進んでいます。また、安全性向上についても指摘されており、リチウムイオン電池の発火による電気自動車の火災事故が頻発していることから、リチウムイオン電池の激烈な発火に対応した「軽量樹脂材料」が望まれています。当社はこれらのニーズに応えるため、「遮炎性×断熱性×軽量」な樹脂繊維複合材料を開発しました。


2.開発品の概要

1)ニーズ

  リチウムイオン電池の発火時は、激しい炎とともにセル構成部材の活物質などの無機物や集電箔などの金属が高温かつ高速で噴出してきます(図1)。電池パックカバーには激烈な火炎で燃えないことに加え、無機物による熱衝撃で穿孔しない必要があります(図2)。

  また、電池パックの上部には車室があり、多くの樹脂内装部品が配置されています。火炎の抜けがなくてもパックカバーが高温になると、乗員が火傷したり、樹脂部品が発火したりする危険性があります(図3)。

  すでに対策材として無機鉱物含有シートや無機多孔質シートなどが提案されていますが、重量増やシートからの無機粒子脱落、カバーへの貼合時のカバー形状への追従性などが問題と言われています。


2)製品概要

  当社独自の高難燃樹脂(塩素化塩ビ)をガラスマットに含浸させ、樹脂繊維複合材料としました(図4)。これまで塩ビ系樹脂は溶融状態でも粘度が高く繊維へ含浸することが難しいため、高比率な繊維含有の複合材を作ることができませんでしたが、当社は独自の樹脂複合技術を駆使し、高比率繊維含有での複合化を可能にしました。
熱可塑性樹脂なので、熱プレスでの賦形やリサイクルが可能です。

 

 また、特殊な3層構造とすることで、電池パックカバー材としての強度を持たせながら、高い遮炎性(耐無機物攻撃、難燃)と断熱性を両立し、アルミ(1mm)+無機鉱物シート(1mm)に対して約3割の軽量性を実現しました。


3)効果についての確認

  トーチバーナーの炎を当て、裏面温度と表面状態を観察しました(図5)。2分後の裏面温度は≦300℃、7分後の表面状態は変形もなく穿孔もありませんでした。

  次に車両への搭載を想定し、高容量セル(NMC811/90Ah)を熱暴走させ、アルミと比較しました。蓋部分をアルミと開発品とで作成した電池パック模型の内部にセルをセットし、熱暴走させました(図6)。
アルミはセル発火後2秒で火炎抜けしましたが、当社開発品は火炎抜けもなく、高い遮炎性を確認できました。


3.今後の展開

  現在は主に自動車向けの開発を進めていますが、将来的には住宅定置用電池、航空機や太陽光発電所などの高容量リチウムイオン電池システムの筐体用途などへ展開を図っていきたいと考えています。


<本件に関するお問い合わせ先>

    【報道関係の皆様】
      広報部
      Email:kouhou@sekisui.com

    【一般のお客様】
      高機能プラスチックスカンパニー 開発研究所 開発企画部
      Email:masa_yamagata@sekisui.com