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実効性の高いガバナンス体制のもと、
客観的視点を活かして「ESG 経営」を
サポートしていく

2022年8月独立社外取締役 大枝 宏之

2018年6月の社外取締役就任以来、国内最大手製粉会社の経営者として培われたグローバルな企業経営や経営戦略、海外M&A の実施など幅広い経験と手腕を活かし、当社の経営への助言や業務執行に対する適切な監督を行っている。

まず、大枝取締役が考えておられる、社外取締役としての役割について
聞かせてください。

一般的に社外取締役には、独立・客観的な立場で執行を監督する役割が求められています。その中でも私が重要と考えるのは、執行側がリスクを取りながらも健全に事業を運営できる環境をつくることです。 私は以前、食品会社で6年間社長兼取締役会議長をしていましたが、社外取締役と執行側の社長との違いは客観性にあると感じています。社長をしていたときには、常に高い緊張感の中で競争に負けまいと強い意志を持って経営判断を行ってきましたが、その過程で当時の社外取締役には、応援団のようなスタンスながらも大所高所から冷静かつ客観的なアドバイスをいただき意思決定に役立ててきました。 今、私は当社の社外取締役という立場になり4年が経ちましたが、その間、当社はしっかりとリスクを取りつつ積極的に事業を進め、健全な経営を行ってきました。リスクを取らない経営はありませんから、私は執行側の経営判断およびその検討過程をリスペクトすることを念頭におき、重大なリスクを感じたときには冷静かつ客観的な視点をもって必要な手立てを講じた施策が実行できるよう後押ししています。

当社のガバナンスの実効性についてはどのように評価していますか。

私が当社社外取締役に就任した当時は、髙下社長(当時)が取締役会議長を兼務する体制でしたが、2年前に加藤社長に交代し、髙下さんは非執行の会長兼取締役会議長になりました。 現在、当社の取締役会は、執行6名、非執行6名で非執行が半数を占め、取締役会議長を非執行側が務めている点も執行と監督の分離を進める上で有効なガバナンス体制だと感じています。私たち社外取締役に対する取締役会議題の事前レクチャーも丁寧で充実しており、内容を理解した上で臨むことができますので、取締役会の場では、議題について活発な意見が出て、議論の質も高いと感じます。 また、取締役会議長は、皆さんの意見を十分に聞いた上で議論を取りまとめ、必要な場合には今後取り組む課題について言及するなど卓越した議事運営をされています。 そうしたことから、当社のガバナンスの実効性は非常に高いと評価しています。

また取締役会の多様性については、2022年6月に新たに3名の女性の社外取締役が加わりました。社外取締役5名は全員、企業経営の経験者ですが、同じ経営でもそれぞれの経歴や強みは異なっており、多様な視点から議論がさらに活発化するものと思います。 監査役の方々の専門的知見の多様性を含め、当社取締役会の多様性は非常に高いレベルにあると思います。 海外事業の成長に伴い、将来的には国籍の多様性についても実現できるものと期待しています。

大枝取締役から見た積水化学グループの強みについて教えてください。

住宅、環境・ライフライン、高機能プラスチックス、メディカルといった既存セグメントがそれぞれの業界において強みを持ち、着実に成長を続けています。このポートフォリオがまず、当社の大きな強みです。 住宅においては他社にはないユニット工法を活かしてシェアを拡大しており、高機能プラスチックスの手掛ける中間膜も世界的に通用する付加価値の高い商品です。またメディカルの領域はM&A等も行いながら第4のカンパニーになり得るステージまで成長しており、ポートフォリオのさらなる強化につながると思います。 新規事業も、地球環境課題の解決に貢献するバイオリファイナリーなどは本格事業化が楽しみです。

もう一つの強みは豊富な人材と人を育てる社風です。取締役会や事業所への訪問時などに垣間見られる厳しさと温かみを織り交ぜた社員同士の対話からは、人材を大切に育てようとする社風が伝わってきます。 真面目で紳士的な人材が多く、幹部候補人材も十分に育ってきており、当社の大切な財産です。

当社のガバナンス上の課題や、改善の余地があるのではないかと感じられる点について教えてください。

当社の組織体として、事業部門であるカンパニーと本社組織としてのコーポレートとがありますが、私の印象では、カンパニーの権限が強く、コーポレートがそのサポートをしているように見受けられることがあります。 世の中にはコーポレート側で全体を横串で統轄し睨みを利かせるガバナンス体制を取る企業もあります。 どちらが良いということは言えませんが、今後、海外事業を拡大していく中で、コンプライアンス上のリスクを抑止していく上では、コーポレートがカンパニーに対してもう少し横串で統括をする組織体系を検討しても良いように思います。

また、当社の長期ビジョンや中期経営計画は、社長や経営陣の考え方が、自らの言葉で策定されており、とても分かりやすいと評価していますが、執行と監督の分離が良い意味で進んでいるので、今後は短期的課題と中長期的課題とに分けると、取締役会では、より中長期的課題の方向性や骨子について、時間をかけて議論し、関与を深めていけたらより良いと考えています。

M&Aやグローバルビジネスの経験が豊富な大枝取締役から見て、当社の海外事業の拡大に向けた提言をお願いします。

長期ビジョン「Vision 2030」で掲げた売上高2兆円、営業利益率10%以上という目標達成に向けては、海外において、既存事業のオーガニックな成長だけでなく、M&Aも実行していく必要があるでしょう。 当社は2019年に過去最大の買収金額で、航空機部品大手の米国AIM Aerospace社を買収して航空機分野に本格的に参入しましたが、航空業界が、直後に発生したコロナ禍の影響を大きく受け、昨年度は結果として減損損失を計上しました。 しかし長期視点に立てば、航空機業界に参入できたこの買収案件は、当社の成長を考える上で正しい経営判断だったと思っています。今後当社がM&Aを積極的に進めていく上で、引き続き自信を持って事業拡大を目指してもらいたいと思います。

当社のESG経営についてはどのように評価していますか。

髙下前社長時代は「ESGは経営のど真ん中」、加藤現社長は「ESGは仕事そのもの」と非常にわかりやすい言葉で、ESGの重要性を繰り返し発信されています。環境課題に対する優れた技術力や解決力は当社の大きな特長であり、社外役員を中心としたダイバーシティ推進委員会が2022年6月に新設され、すでに着実に成果の上がっているD&I(ダイバーシティ&インクルージョン)への取り組みをさらに強化しようと熱心に進めています。 ESG経営がしっかりと実践できている会社として、投資家等から高く評価されていることは、私も当然だと受け止めています。

今後、グローバル事業を拡大していくにあたっては、特に「S(社会)」に力を入れ、具体的にはサプライチェーン全体の人権デューデリジェンスやD&I 等をしっかりと推し進め、リスクを未然に防止し、強固なグローバル管理体制を構築して成長を続けてほしいと期待しています。